杞憂

流れてゆく雲。
横須賀の浜に横たわり、ただ空を見上げる。
珊瑚海から1ヶ月。MO作戦は第五航空艦隊の大戦果により首尾よく進んだ。天然の要塞のポートモレスビー攻略戦である。敵機動部隊が一時的に麻痺した効果は大きかった。かねてより計画されていたMI作戦は一時延長され、完全に掌握された制空権の元、戦艦大和長門陸奥をはじめとする日本の大戦艦群が咆哮し、ポートモレスビー現地軍を攻略してゆく。空の要塞B17といえども音速を超えて飛翔してくる1トン超の砲弾には耐えられなかったのだ。航空戦力は撃滅され・・・。
ついにポートモレスビーは陥落。
ここにおいて日本軍は確固たる航空基地を手に入れたこととなり、ガダルカナルラバウルポートモレスビーを結ぶ三角形の地域は「死の領域」とアメリカ軍に恐れられるようになってゆく。


奇跡の生還を果たし、横須賀の空をまた見上げる。ふと人影がやってきた
「いつまでたっても戦闘機乗りがくるのはここだな」
岩塚だった。彼はこの一ヶ月驚異的ともいえる回復を果たしていた、もう2週間ほどで退院できるという。
「また同じ部隊になるといいがな」
と答えた。同意の意見がくるものと思っていた、それは意外な返答だった
「なあ、この戦争はいつ終わるのかなあ?」
「?」
「俺はこの戦争の意味がわからなくなってきた、ポートモレスビーを落とし、後はオーストラリアを降伏させて果たしてこの戦争は終わるのか?」
「それはわからないよ、それに俺たちがどうこう出来る問題じゃない」
「だが考えないではいられない、こうして俺は回復した。そしてまた戦場に赴くのだろう。この入院生活は物事を考えるのにはうってつけだったよ、そして思ったんだ、理由もわからず死ぬのは馬鹿らしいとね」
「死ぬとは決まっていないじゃないか」
「だが、死なないとは限らない。日本は戦線を広げ、もうわが軍は自分の能力以上の力を使ってこの戦域を維持してる。いつか確実に破綻し、ほころびを埋めるため俺たちのようなやつらが散っていくのじゃないかと」
「・・・つまり無駄死にといいたいってか?」
「そうは思わないが・・・・。この戦争が終わった後にいったい何が見えるのかと思ってね。」
「俺たちは飛ぶしか出来ないさ」
俺はそう答え、その場の考えから逃げた。



・・・・・すべてが杞憂で終わればなんと幸せなことだろうか・・・・・



そう思わざるを得なかった。


次の日、軍からの連絡で、厚木までくるように指令が出た。その指令は意外なものであった。



15試作計画機。


なんともわけがわからない、初めこのことだけを聞かされた、用はテストである。
門をくぐり倉庫を抜け、3機の機体が置かれていた。どれも初めて見たものばかりだ。
ひとつは、零式艦上戦闘機にそっくりだ。というか零式艦上戦闘機なのだが何か違う、二つ目は日本には珍しい中翼機である。もうひとつは零式艦上戦闘機をかなり拡大したような機体であった、まだペンキも新しい、計画機とはこいつのことだろう。
「どの機体が気に入ったかね?」
いきなり後ろから声がかけられた、そしてわが目を疑うこととなる
「や、山本長官!!いったい・・・どうゆうことなのでありましょうか?」
うろたえる私を微笑をたたえてこちらを見ている彼が答える
「君にぜひ次期戦闘機について最前線の戦訓を生かした意見が聞きたいのだ、協力してくれるかね?」
「も、もちろんであります!!」
頼むよ、と一言彼は消えた。
すると基地責任者のような人が近づいてきた
厚木基地テスト機担当の滝です」
運命の針はまた、大きく動き出した・・・・。




5月11日あたりの日記の続編でした